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* ○○○は見た!
平日の昼間。
テスト休みの学生や主婦たちしか来ない時間帯。
ワイワイ騒ぐのもいいけれど、こんないい天気なら、外で遊べばいいのに。
曇ガラス越しの日差しを受けて、のんびりとそう思う。
あー、そろそろ8号室のお水を替えにいかなきゃ。
冷蔵庫に冷やしてあるピッチャーから、透明な液体を移し変える。
ついでとばかりに、製氷室から氷を出して、ポチャンとグラスに落した。
カラオケルームのドアをノックする。
歌っていれば、ほとんど気づかない音量。
返事も待たずに、扉を開けた。
個室に、男二人。
一人は、高校生くらいの子。
そして、もう一人は……。
「おねえさん。今、オッサンが探し物してるんだけど、それがなんだかわかる?」
髪を後ろに縛っている男の子が尋ねてきた。
「1万円札ですよね」
私が、そう口にすると、顎にまばら無精髭を生やした男がクワッと口を開けた。
その表情が、何故それが分かるのか!と言わんばかりだった為に、先ほど見た衝撃的な光景を思わず忘却の彼方に置き忘れそうになる。
でも、それはほんの一瞬のことで、瞼には、しっかりと焼き付いていた。
扉を開けて、真っ先に瞳が映し出したものは------
------少年の身体を弄っていたスーツ姿の中年男性だった。
「ほらほら、お姉さんは分かるって」
おどけた口調で言う少年の姿に、あのときこの中年男性がしていた意味を悟る。
この1万円札を探す為に、身体検査をしていたのだと。
テーブル上にある飲みかけのグラスを下げて、替わりのモノを置く。
未だ探し物がどこにあるのか分からないと呟いている男性の横を通り抜けて、ドアを静かに閉めて廊下に出た。
深夜に近い時間帯。
今日もサラリーマンや学生と思しき人たちが、お酒を酌み交わしながら歌っている。
昼間に来る客層と違い、人も多いことから、フル稼働で注文したモノを厨房から持って出る。休む間もなく、次の個室に頼まれたモノを届けに行くと、以前見た光景と同じモノが瞳に映った。
あの時は、確か、探し物だったけれど……。
先週来た少年と、今度は怜悧な雰囲気を纏ったスーツ姿のメガネをかけた青年だった。
思わず、この間と同じ隠し場所に視線を移すが、1万円札はなかった。
今度は、どこに隠したのだろうか。
それとも----。
何事か、少年が告げてくるかと思ったけれど、今度は何も言わず黙ったまま、視線を逸らしている。
注文の品をテーブルに置いて、ソッと扉を開けて廊下に出る。
ドアが閉まる前に、背後をソウッと振り返った。
寄り添うように身体を密着させている二人が、ほんの一瞬だけ隙間から見て取れた。
廊下まで漏れ出でる音楽を意識の片隅でぼんやりと聞き流しながら、今度こそ間違いなしとグッと拳を強く握り締めた。
※ 萌え場に書いた『金田一少年の推理クイズ 真犯人を見つけだせ!』カラオケ対決! 剣持vs.ハジメ!より妄想。
* 紅
シャワーを頭から浴びていると、右肩がむず痒い。
左指を軽く曲げて、その場所を浅く掻くと指先に引っ掛かりを感じた。
シマッタと思ったときには、すでに遅く、瘡蓋を剥いてしまっていた。
痒みが引き、一瞬の痛みがやってくる。
年下の恋人が、付けた痕。
痛みなのか快楽故なのか、抱き合ったときに彼の衛生的とはいえない長い爪が皮膚を食い破った。
その時のことに思いを馳せていると、浴室で温まった体温が更に上昇する。
軽く首を振って、上から注がれる湯を止めた。
髪を拭くために用意したタオルを右肩にあてる。
水分を含んだ薄い紅が、淡色のタオルに小さなシミを付けた。
そこへ、ソッと唇を落として彼の人を想った。
* 遊園地
「俺、本当はこういうの苦手なんだ」
ガタガタという音に負けない声で、隣の相手に言い募った。
夜勤明けで、睡眠を取った夕方から遊園地でデートすることになった。
楽しみでワクワクしていたものの、目的地に着いた途端、些細なことから口論になり、意地の張り合いみたいなもので、今絶叫系マシーンに乗っている俺だ。
内心は怖くて仕方がないのに、それでも強がって順番を並んで待っていたけれど、いざ、乗り込んで頂上への道のりを徐々に上り詰めて行くと、強気な態度はなりを潜め始めた。
思わず、本音が洩れる。
あんなに大したことはナイ!
こんなのはへっちゃらだと言い張っていたのに、もう体裁など構っていられないくらい、心臓がバクバクしている。
今にも泣き出しそうな俺に、横に座っている男が口を開いた。
「怖いのだったら、私だけを見てなさい」
その台詞に、俯き気味の頭が上がる。
マジマジと横に並ぶ顔を見る。
その目が、真剣で思わず視線が逸らせない。
さっきまでうるさい位に鳴っていた胸の鼓動さえも、遠のくくらいジッと相手を見詰めていた。
「キミが私を見ていたのは、最初の10秒くらいでしたね」
そう、俺は、急降下する物体に根負けした。
上体を前に曲げて、停止するまで目を瞑っていたのだった。
「だって、だってさ、仕方がないじゃないか」
思わず涙目で反論する。
相手の表情に意識を奪われたのは最初だけで、もう後はひたすら目を瞑って恐怖に耐えていたのだから。
「お陰で、ひたすら上体を縮こまらせて恐怖するキミをずっと見てられましたけど」
それは、イヤミなのか。
それとも……。
「ずっとって、まさか、あの間ずーっと俺を見てたのか」
信じられないと表情や口調にも、それが現れる。
「えぇ、見てました」
あの極限の状態で、本当に見てたのかよ。
驚愕に目が見開く。
「えっと、鞭打ちになってない?」
あれだけの衝撃を耐えるのだから、身体がどっか変になっていてもおかしくはナイはずだ。
思わず相手の体調を心配してしまう。
「実は、さっきから首が反対に動かせないんです」
真剣に告げられる言葉。
そういえば、身体は前を向いているのに、首だけはずっと俺の方を見ている。
心配な表情で見詰めた俺に、相手の目が笑っていた。
「嘘付いたな。心配かけやがって」
本気で腹が立つ。
その当人はといえば、首元に手をやり軽く揉む仕草を繰り返していた。
右を向いていた頭が、スルリと正面へと動く。
「本当ですよ。今ようやく前を向けれるようになったのですから」
本当かよ?と疑いの目を相手に向けた。
その視線を受け止めた男が、何かを指し示す。
「今度は、アレに乗りましょう」
食器棚に収まっていそうな物体を目にした俺は、賢明に首を横に振り否定の意を示した。
* 唯一人
どうして、コイツなのだろう。
仲の良い同級生、頼りないけれど憎めない後輩。
年の差なんて関係ない親友。
たわいのない話をして馬鹿笑いできる仲間たち。
なのに、なのに……。
いつも最後に頼ってしまうのは、この男、唯一人。
☆
「分かりました、手配しておきましょう」
礼を言われて、通話を打ち切る。
事件に巻き込まれやすい民間人。
未成年にして、相性は最悪。
友人の一人には絶対に加えたくない人物なのに。
その彼から懇願されると、頷いてしまう自分がいる。
誰彼と、愛想良く付き合うなど、自分には向いていない。
孤高と呼ばれて生きるのに、支障もなく、今までそうしてきたけれど、こうして彼に引っ掻き回されるのも悪くないと思ってしまうのはどういうことなのだろう。
資料を手配する為に、書斎に向かう。
パソコンの電源を入れ、次の行動に移る。
自分の警視という肩書きが、どこまで優遇されるか。
試してみるのも、また一興だと受話器を取り上げた。
※天草財宝伝説殺人事件(上)での話を元に、明金妄想してみました。
* ■名前■リロード27話 オマケ
「明智さん、明智さん」
「何ですか」
恋人に呼ばれて、振り返る。
その先には、嬉しそうな瞳で私を見上げる彼がいた。
「明智さん」
「だから、何です」
名を呼ばれ、彼の元に近づいて行く。
「明智さん」
彼が、胸元に飛び込んできた。
「どうしたんですか」
相手の背中をゆっくりと擦り、視線を合わせる。
「ただ、呼んでみたかっだけ。でも、なんか幸せなんだ。こうして名前を呼ぶとアンタが振り返って、自分の元に来てくれるのが」
そう言われて、自分も名前を呼んでみた。
「金田一くん」
「はーい」
「金田一くん」
「何?ナニ?」
「金田一くん」
「ここにいるよ」
私の胸元から、クリッとした目で覗き込まれる。
「確かに、幸せを感じますね」
「だろう、だろう」
得意気に、私を見返す瞳に嬉しさが溢れている。
そんな彼を抱き寄せて、腕の中にソッと仕舞い込んだ。
「明智さん」
不安げな瞳で、彼が名前を呼ぶ。
家族も知り合いも居ない、この部屋に唯一いる人物の名を呼んでいる。
頼りなげに揺れる瞳で、切なそうに見詰められる。
あの時と変わらない呼び方をするのに、こんなにも意味合いが違っているなんて思いも寄らなかった。
「金田一くん」
そういう私自身も、戸惑いを隠せない。
あの時と、今とでは状況が全く違っている。
それでも、彼に呼ばれた名前の切なさに胸が熱く疼いた。
* ■笑顔■リロード26話オマケ
「笑顔って偉大だよな」
そんなことを、突然彼が言い出した。
「陰惨な事件で気分が落ち込んだとき、傍にいる美雪の笑顔に何度も救われたんだ」
その表情を真似るように、彼がこちらを向く。
「はじめちゃん、大丈夫だよ。私が付いてるからね。って言われてるみたいで、言葉より何倍も心に沁み入ったよ」
「そうですか」
その彼女に恋人が出来、今までとは違う雰囲気にいる幼馴染に戸惑いつつあるのだろう。懐かしく語る姿に、そう結論付ける。
冷静に分析してそう思わなければ、燻っている嫉妬心という炎が燃え上がりそうだったから。
そんな私の様子に気付くこともなく、彼が再び口を開いた。
「笑顔って本当にスゴイんだぞ」
「はい、はい」
おざなり程度に言葉を返し、聞き流す。これ以上、会話を続けていたら大人の仮面を被り続けていられるか自信が持てなくなりそうだ。
「特にさ、滅多に笑顔を見せないヤツのなんか、すごい効果絶大なんだからな」
おや?彼女の話から、内容が少し逸れてきている。
「それは、誰のことです」
「自覚ないの?」
「私…、ですか」
「そう、アンタ」
そんなに彼の前で笑わなかっただろうか。
当時を思い出す。
「言っとくけど、冷笑とか失笑じゃなくて、笑顔だからな、笑顔」
くどいくらい彼が私に言ってくる。
ということは、当時の私は、そんな表情しか彼に見せていなかったようだ。
「本当に、アンタって俺を馬鹿にするような表情しか見せなくてさぁ。本気で嫌われてるんじゃないかって思ってたくらいだぜ、全く」
まぁ、出会い当初は、小生意気な探偵気取りのガキだと思ってたことは確かなことで・・・。
「それなのにさぁ、ひょんなことで見たアンタの笑顔に参っちゃったなんて。俺も、若かったよな」
「今だって、充分若いでしょう」
「明智さんに比べたら、ね」
片目を瞑って、イタズラを仕掛けたようにニンマリと微笑む。
「幾つになっても、歳の差は埋まりませんから」
「そんなに気にするなよ」
「別に、気にしてません」
10歳以上年の離れた恋人。
彼が私より年下なのは、永遠に変わりようがない。
「キミの笑顔も魅力的でしたよ」
「だろう」
自信満々で答える姿に笑みが零れる。
全く持って、いつまで経っても自分の恋人は可愛らしく見えるものだ。
「いろいろな表情を見たくて、私もキミに突っかかってましたね」
当時の自分を思い返す。最初に出会った時のマイナスイメージをブラスに変える、彼の魅力。それは、新鮮味を持って私を捉えた。
その時から、私は彼に魅了されていたのだから。
傍にいる彼を引き寄せる。
「いつまでも、私に見せてくださいね」
「何を?」
「きみだけが持つ、いろいろな表情を」
「今も、見てるじゃないか」
「そうですね。でも、私だけが知っている顔も見たいです」
「今?」
「そう、今すぐ」
表情が見えなくなるくらい顔を寄せてから、メガネを取り去る。視力ではなく感覚で、彼が私に微笑みかけるのを感じていた。
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