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11-20

* 約束 七夕の明智さん視点


 
「アンタの呼び出しって、いつも急なんだもんなぁ」

ブツブツと不平を言う彼を、後ろから抱き締めた。
途端に、フツリと言葉が途切れる。

彼の頤を持ち上げて、ソッと唇に影を落とす。
首を傾けながらも、行為を受け入れた舌が私の口内に忍び込む。
それを、緩やかに受け入れて、主導権をもぎ取った。

 


彼に会いたいと願う時は、必ずと言っていいほど邪魔をされる。
最初に時間を決めて、携帯から連絡を入れようと思いつつ、また約束を反故にするのではないかと躊躇う。

口約束で一向に実現されないことから、彼が憤るのは無理もない。
私も、彼と同じなのだから。

会いたいと願い、そのチャンスが訪れそうな時でも、もしかしてと思い、連絡を入れずに我慢する。
約束を守れずに彼を悲しませるかもという気遣いもあるが、それよりも切実に、彼に会いたいのに逢えない自分の気持ちが、落胆するのに耐えられないからだ。

だから、本当にギリギリで時間が取れる時にしか連絡を入れないため、彼は、私に突然呼び出される。
最初は、不平不満で文句を言ってばかりだったが、私から連絡が入る=すぐ会えるという図式を飲み込めた今では、率先して会いに来てくれている。

口では文句を言うものの、態度は明白で-----。

今の現状がまさにそのものだということは、至福にいる私だけが知っていればいいことだ。

 


「本当に、アンタって我侭で気紛れで、俺を呼び出すんだよな」

下から見上げる彼の視線を受け止めて、まだ色づいている肢体へと唇を這わせた。




* 10カウント



触れ合いたいと思うのに、なかなか上手くいかない。

掠め取るようなキスの後、互いの吐息を奪うような口付けが続く。

酸欠に似た状態で相手を見詰めていると、フゥと息を吐き出し密着していた腕を解いた。

もっと触れていたいのに、身体に力が入らず離れていく体温を寂しく思う。

 

この気持ちを、どう表現すればいいのだろう。
好きだから触れたいのに……。

だが、目の前の男はそう思ってはくれないようだった。

 


未だ、俺の瞳を正面から受け止めない人に、言いようのない不安を覚える。

この想いは、一人相撲なんだろうか。
そんな悲しい気持ちを隠し切れず、口を開いた。


「俺のこと、嫌いなの」

相手が驚愕の表情で、振り向く。

「どうして、そう思うのですか」

戸惑い気味に訊ねられる。
それへ、眉尻を下げて答えた。

「キスしたのに、離れていくから」

ほんの少し距離を縮めるように、身体を前に出す。

「俺、アンタともっと触れ合いたいよ」

心の中の本音を零した。

 


「キミが好きですよ」

笑顔で言われたけれど、腕を差し出してはくれない。
ソッと動いて、空いている胸に凭れかかる。

抱き寄せてくれるかと期待していたが、一向にその気配はなかった。
それを残念に思いながら、言葉を続ける。

「やっぱり、俺のこと嫌いなんだ」
「違います」

即座に否定された。

「じゃあ、どうして何にもしないんだよ」
「何をして欲しいんです」

具体的に考えてなかった為、言葉に詰まる。

衝動の赴くまま、欲求に従って触れ合いたいと思った。
でも、それをどう言葉で表していいのか分からない。

もどかしくて、でもどうにか表現したくて、口の開閉ばかりを繰り返す。

そんな態度をどう思ったのか、相手が徐に話し出した。

「私の思うままキミに触れたら大変なことになりますよ」

この表現をどう受け取ったらいいのだろう。
『タイヘン』って、ナニが?

疑問を口にする。

「えーと、もしかして柔道技を仕掛けられるとか。
まさか、プロレスみたいに、10カウントを取るとかじゃないよな」

思いつかないような技で、俺に触れてくるのだろうか。

困惑した脳内に様々な疑問が浮かんでは消えていく。

そんな俺を他所に、視線をあさっての方向に向けながら相手が喋り出す。

「…・・・、まぁ似たようなモノです」


肯定されて、驚いた。
そういう趣味があったんだ。

体力がなく、格闘してもすぐに負けてしまう為、触れ合いたい気持ちが一瞬で萎える。


弱り顔の俺の身体に、男の手が触れる。
温もりに安心しつつ、力強い腕の力に、不安が過ぎる。

その後、筋肉痛と共に、本当の意味を理解する俺だった。

 



* アメとムチ



 
待ち合わせ場所に現れる人影。
俯いていた顔を見上げれば、恋人の笑顔があって、自然とこちらの頬も緩む。

「ヘグッ」

突然、口元に何かを突っ込まれた。
驚く合間に、口内へと広がるのは美味しいイチゴミルクの味だった。

球体を舌で頬へと押しやり、文句を言ってやろうとするのに、魅力的な味覚に唾液が喉へと押し寄せる。

モゴモゴと棒の付いた球体を舌で転がし、甘露を味わっていたが、さすがにこればかりはマズイと思い始めた。

男の手が、素肌を暴き始めたからだ。

「ふわにしゅるんひゃよ、あひぇひしゃん」

アメの大きさがアダになって、上手く喋れない。
それでも抵抗の意を示す為に、触れている相手から距離を取ろうとした。

いや、実際には離れたけれど……。

相手が握り締めている物体を、呆然と見詰める。
それは、ついさっきまで俺のズボンに差し込まれていたベルトだった。

「ひゅひょひゃに(いつの間に)」

気づかれずに掏り取るのは、俺の得意技だったのに。
悔しくて唸っていると、今まで喋り出さなかった恋人が、嬉しそうに口を開いた。

「飴と鞭という言葉を知っていますか」

知ってるよ。
言うことを聞かす為に使う、言い回しだろう。それ。
っていうか、笑顔で俺に近付いてこないで欲しい。
しかも、ベルトを二つ折りにして、両端持ってピシピシさせながら来るのは何故!?

うわぁー。ここ往来。
じゃなくて、家の中でも、絶対にイヤだからな。こんなのは。
夢だったら、ユメダッタラ、覚めてくれ~。

絶体絶命な気持ちのまま、迫り来る相手に対してギュッと固く両目を閉じた。

 

   □   □   □

 

「おや、こんなところにありましたか」

知り合いの子供から貰った棒付き飴が、上着のポケットから出てくる。

色鮮やかな包装から、味が推察できた。

「はじめが好きそうな味ですね」

彼の笑顔が脳裏を横切る。
飴をしゃぶりながら微笑む姿を想像するだけで、こちらの気持ちが、ふんわりと穏やかになる。

後で渡してやろうと思いながら、上着を椅子の背凭れに置く。
腰に手を当てて、ふと、気が付いた。
ベルトの損傷が激しくて、そろそろ新品と取り替えようと思っていたはずだ。
確か、自室に買い置きがあったと思ったのだが、どうだっただろうか。
腰からベルトを抜き取り、処分の方法を思案する。
皮は燃えるごみで、バックルはその他の金属に出せばいいと思ったのだが。

ゴミの日のカレンダーを見て、考え込んでいる私の前に、恋人が姿を現した。

 


あー、やな夢見た。
なんて夢を見たんだろうか。

それにしても、夢でよかったよ。
あの、けーごさん、マジで怖かった。
ギユッと目を閉じたときに、目覚ましのベルが鳴って飛び起きた。

一瞬、何が起きたのか解らず、それから深く吐き出した吐息によって、あれが夢だと結論づけた。
変な夢を見たと、けーごさんに告げて、共に笑ってもらおうと、リビングへの扉を開け放つ。

そこで目にしたモノは、今まさに語ろうとしていた夢の中に出てきたアイテムそのものだった。

「はじめ。おはようございます。この飴ですが」

ベルトを持ってけーごさんが、何か言っている。
アメって、まさか……。

パタン。

音を立てて、自室に閉じ篭る。

これも、また夢なのか。
だったら、覚めてくれ!

布団に潜り込んで、ギュッと瞼を閉じた。

 


「どうしたのでしょうか。急に話のネタでも思いついたのでしょうかね」

突然、扉を閉めて自室に戻ってしまった恋人に対して、納得のいく結論を割り出した警視長なのでした。




* バラレル明金 1/3 (バーテンダーの明智さんとバイトのはじめちゃん) 


 
淀みなく流れる仕草で、グラスに液体を満たす人をぼんやりと見遣る。

「はい、どうぞ」

キレイなアクアブルー。
グラスに添えられた指先までもが、人を魅了する。

今度は、どこの席に届けるのだろうか。
指示を待つ俺に、暗がりの灯りの元でもハッキリと分かる笑みを口元に浮かべている人。

もしかして、

「これ、俺にくれるの?」

半信半疑で聞いてみた。

「えぇ、今のキミに合わせてオリジナルで作ってみました」

その言葉に、相手の顔とカクテルを交互に見詰めてしまう。

正直、嬉しい。
だけど、本気にしては駄目だ。
この男は、夜の住人なのだから。

「客相手に言えよ、その台詞」
「キミにしか言いたくありません」

嘘吐きと呟きながらも、頬が熱くなる前にクイッとグラスを傾けた。

 

※夜の大人な雰囲気を纏う明智さんに、バイトくんのはじめちゃん。
今までの浮名故にはじめちゃんに信じてもらえない明智さんと、周囲から今までの艶聞を聞かされて、明智さんのことを信じられない、はじめちゃんです。


 

* バラレル明金 2/3



店を開ける前に、準備することがある。
いつもは、マスターとバーテンの明智さんとバイトの俺の三人で、やっていることだが今日は違った。

マスターに用事がある為、普段より1時間早く出てきたのに、どうして、こんな状態になっているのだろうか。

「ふ…、ンンン」

棒立ちになっている俺の手から、テーブルを拭いていた布がポトリと落ちた。


最初は啄ばむように、途中から何かも絡め取るように舌を吸われる。
痛みに顔を顰めるが、すぐにそれを凌駕する快楽が襲ってきた。
ズボンの前が寛げられて、直に中心部を揉み解される。

羞恥よりも、興奮の方が勝っていた。

はっきりいって自慰とは比べ物にならない気持ちよさに、もっとして欲しいと腰を擦り付けそうになる。
それを、残っていた理性が押し止めた。

「誰にでも、こうするのかよ」

荒い息の合間に、言葉を搾り出す。
最後の語尾が掠れ震えてしまうのは、仕方がない。
手馴れた仕草で俺を抱く相手に対して、泣きたいほど悲しい気持ちになる。

それを振り捨てて、ギュッと瞼を閉じる。
今ある、快楽だけを追おうとした途端、強く抱きしめられた。

真摯な声が鼓膜に響く。

「キミだけです。信じてください」

懇願するように言われて、背筋に震えが走り抜ける。
今、この瞬間にイクことが出来たら、どんなに気持ちがいいだろう。

擦り付けそうになる腰を叱り付け、両手を前に出し、相手との距離をとる。

「信じられませんか」

悲しげに目を伏せる男。
その姿に、絆されたら負けだと思う。

だけど、

「キスだけならいいよ」

パッと顔を上げた男と目があう。

「ただし、軽くだからな。それ以上は」

禁止と告げるより早く、唇が押し当てられた。
チュッと音を立てて、啄ばまれる。
高まった熱を吐き出そうとする衝動をすり替えるように、俺たちは何度も口付けあった。


 

* バラレル明金 3/3



「いらっしゃいませ」

重い扉を押し開けて、一人の女性が現れた。

「今日は、悪かったわね」

そう言ってカウンターに腰を下ろし、タバコを一本取り出す。

「いいえ、問題なく済みました」

グラスを磨く手を休めず、応対した。

ふーんと鼻に抜けた言葉を発しながら、彼女がジッポの火を点す。

紫煙が、細く立ち昇る。

タバコをすぐに口に銜えることなく、こちらを見ている眼光から、全てを悟られているような錯覚を覚える。

「はじめちゃんに手を出したんだ」

それだけ言うと、口角をやや上げて、美味しそうにタバコを吸い始めた。

黙々と作業をしていた手が止まる。

「でも、最後まではイケなかったと」

気だるげにタバコを燻らして、煙を吐き出しながら呟かれた。

どうして、それを……。
と口に仕掛けて、彼女の職業故の判断かと思い止まる。

こちらの心情が分かるように、更に言葉が続けられた。

「別に、占ったワケじゃないよ。はじめちゃんを見れば分かることだし、アンタの態度からもね」

そんなに分かりやすい態度を取っていただろうか。
はじめは元より、自分はそこまで表情には出ていなかったはずだ。

「何故、分かるのか。不思議に思っている」

どことなく得意げに、彼女が囁く。

認めるのは癪だったが、ひとまず頷くことで肯定の意を表した。

「ケン、本気で手を出したでしょう。はじめちゃんに」

彼女の瞳がキラッと輝いた。

「好きだから、気持ちよくなって欲しくて、持てるテクニック全て駆使した結果、振られたと」
「振られてなんかいません!」

そこだけは、訂正する。
彼は、言ったのだ。
キスだけならいいと。

だから、振られたワケじゃない。

「そっか、振られてないのか」

残念と言葉を続けそうな気配に、目元がキツくなる。

「種明かしをしようか」

タバコをギュツと灰皿に押し付けて、彼女が言った。

「昔、イロイロな男と付き合ってた女がいました。どの男と付き合っても楽しかったけれど、本気で好きになった人はいませんでした。そんな女が、ある日、恋に落ちました。平凡で別段何の取り得もない男だったけれど、一緒にいるだけでホッと出来る彼に、彼女は惚れました。
幾度がデートを重ねる内に、自然と男女の関係に進みました。彼女は自分の持てるベッドテクニックを駆使して彼に奉仕しました。そして……、彼女は彼に振られました」

物語を読み聞かせるような口調なのに、最後の部分だけが違っていた。
しんみりとした言葉に、続きを無言で待つ。

「テクニックを駆使した行為が、彼を傷つけたと知ったのは、情事の後でした。ピロートークで、彼は言いました。『周囲が、どれだけキミを遊び人だと言っても僕は信じなかった。だけど、本当だったんだね』と。それに対して、彼女は何も言えませんでした。彼の言葉や表情があまりにも悲しげだったから」


それっきり、彼女は口を閉ざした。
これ以上話すことはないと、判断したのだろう。

「言い訳はしなかったんですか」

その女が目の前にいる女性だと分かったから、グラスを差し出した。

「言ってどうするのよ。彼を傷つけたのは、彼女自身なのだから」

そう言い切って、透明な液体が入ったグラスを煽る。

「だから、ケンも振られたのかと思ったんだけど、違ったか」

空になったグラスを傾けて、彼女が笑っている。
その先にいるのはーーーー。

「はじめちゃん。今日はごめんね。うちの旦那、後少ししたら来るから」

ーーーー髪を後ろで一括りにした、はじめだった。

彼が、少し戸惑ったようにオーナー夫人へと話し出した。

「麻理絵さん、大丈夫だったよ。明智さんと二人で前準備頑張ったから」
「違うコトも二人で頑張ったんじゃない」

その言葉に、はじめの顔が赤くなる。

「ケンは遊び人だから、気を付けなさいよ」
「うん」

頷いた後、彼女から視線を移してこちらを見た。
ツンとそっぽを向いて、クルリと踵を返し入り口付近へと移動して行く。
その姿を見遣ってから、不敵な顔をした彼女に文句を告げる。

「口を挟まないでください」
「障害が多いほど、愛は燃え上がるものよね」

バチンと音がしそうなほど大きくウインクして、席を立った彼女は、扉を開けて入ってきた夫に向けて、魅惑的な笑みを浮かべていた。


 

* シーツネタ マジシャン編



 ふぅ、眠れない。

別段、決まった時間に寝ることはないのだけれど、何もナイ時は、常人と同じような時間帯で寝るように心がけている。

薄暗い室内灯を、ぼんやりと眺めながら、彼の人のことを想う。

殺人プランナーと高校生。
犯罪者と探偵。

全く異なる私たちが合間見えることで生まれる、感情と熱量。

自然と体温が上がるのを自覚する。
全く、現金な身体だと口角を上げて笑い出す。

さて、彼と今度会ったら、ナニをして遊ぼうか。
いろいろと想い描いていたのに、実際はというと……。

 

「バッカでぇ。俺にそんな小細工が効くと思ってたのか」

半ば、脱げかけているシャツを腕に纏わりつかせて、彼が一笑する。

「半分は、思惑通りだったんですが」
「そうそう、上手くいくか。今迄だって、そうだっただろう」

上半身を起こして、私にそう告げてくる。

確かに、金田一くん相手では、予想通りにならないことの方が多いのは事実だ。しかし、経験したことでしか成長できない身としては、やはり……。

「実践あるのみですね」
「へっ」

戸惑い気味の彼をベッドに深く沈み込ませて、妄想と現実が入り混じった曖昧さを心地よく受け入れた。




* シーツネタ 警視編




ふぅ、眠れない。

身体が休眠を欲しているのだから、寝なくてはいけないと理解はしているのに、そう思えば思うほど頭は冴えてくるのだから仕方が無い。先人に習って羊でも、数えようかと思うが、それも芸が無い。ここは、彼の人のコトを想って寝ることにしよう。

この間は、何をしていたか。瞬時に、そのときの光景が思い浮かぶ。
そう、このベッドで抱き合って過ごしていた事を。

あの体位は初めてだったけれど、それなりに順応していたように思う。今度は、別の攻め方で啼かせてみたいものだ。

考えを纏めながら、ふと、ベッドサイドに置かれているデジタル時計を見ると、優に20分は経過しているようだった。

まずい。益々眠れなくなる。

こうなったら、やはり単調に何かを数えて眠ることにしよう。
瞼を閉じて、目頭を軽く押さえる。さて、何にしようか。

手に触れたシーツを、その対象にすることにした。

緑のシーツが一枚。
この色だと、彼の裸体に映えない。
ベッドサイドにある明かりを昼白色に替えるべきか。
いやいや、シーツの枚数を唱えることに集中しなくては。

桃色シーツが一枚。
彼の髪の色に映えるのは、濃色か淡色か。
淡い色の方が好みだが、この間カタログを見て気に入った色は正反対だった。自分の直感を信じて、購入すべきか……。

などと心惑わされて延々悩む、警視なのでした。
 



* 明金SS とある日常5の続きコネタ




「アンタもやったんだろう」

ニヤニヤと笑いながら、彼が問いかけてきた。
いったい、何のことだろうと、疑問を浮かべて相手を見る。

「ほら、この間バイク乗せてくれたじゃん。その時に着てたツナギ新品だっただろう」
「えぇ、そうですが」

久々に、乗ることになったバイクに合わせて、新調した物だ。
それが、どうかしたのだろうか。

相手の表情から言いたいことを読み取ろうとするよりも早く、彼が言葉を繋げた。

「ダチが言ってたんだよ。事故に遭わないように新しいツナギを着た時は、地面を転げまわるもんだって。アンタもやったんだろう」

こう、言い切った後、「うひゃひゃひゃひゃ」と彼が大声で笑い出した。

私が、そういうことをしている様を思い浮かべているのだろう。
だらしなく緩む頬を、冷めた目で見詰める。

「何のことかと思ったら、そのことですか。確かに昔はやりましたよ。
今では、それをしてもしなくても事故が起こる時は、起こると解っていますからしていません。
まぁ、あれは験担ぎみたいなものですからね」

私の説明を聞いているのかいないのか、彼は、尚も笑い続けている。
それを横目に見遣り、ふぅ~と軽く息を吐き出し、眼鏡のブリッジを押し上げた。


験を担ぐといえば、職場にもいる。
たとえば、彼の親友の剣持さんも、その一人だ。
事件が起こると必ず、左足から靴下を履くのだと、酒の席で聞いたことがある。
そうすると、早期解決できるのだそうだ。
眉唾物だか、まぁ、一種のジンクスと言ってもいいだろう。


まだ笑いの治まらない相手の顔を見据えながら、今度は、掛けていたメガネを取り去った。
途端に、ピタリと笑い声が止む。

これも、ジンクスの一つだ。
二人きりのときにメガネを取り去る行為は、口づけの合図なのだから。

潤んだ瞳に、赤みの残る頬。
笑いの為に出た作用だが、その様がそそるのだから仕方がない。

頤に手をあてて、俯きがちな顔を自分の方へと向き直させる。
伏目がちな瞳が彼の戸惑いを表しているようだ。
それでも、私の行動を制止する言動は出てこない。
いつものように半眼を閉じると、相手もそれに倣った。

後は、もうなすがまま……に、なるばすだったのだが……。

 

 

「ぷっ、ぷぅ」

彼が、自分の口元を手で押さえながら、身体をくの字形に折り曲げた。

「駄目だ。やっぱり笑っちまう。アンタがツナギ着て転げまわっていたら、メガネなんてかけてるわけないよな。やっぱ、その表情でゴロゴロ転げまわったかと思うと、腹が捩れるほど笑えてきちまう」

実際、そのとおりに腹を抱えて再び笑い出した。
彼の年頃からすれば、何でも可笑しいのだろう。
そう思うものの、ムッとした表情は抑えられない。

こうして、私のジンクスは一つ破られたのだった。
 
 
 
  
* 花弁




舞い散る桜吹雪の中で、キミが笑う。

「ねぇ、知ってる?三回連続で、桜の花びらを掌に掴む事が出来たら、願い事が叶うってこと」

そう言った後、そっと拳を開いて見せた。
彼の手中には、潰れることなくキレイな形のままの花弁が3つ乗せられていた。

「何を願うのですか?」

嬉しそうに、こちらを見ている彼に問いかける。

「へへへ、ナイショ」

花弁を、手中に優しく握りこみ、その拳を口元に持っていく。
何事かを呟いたあと、パッと掌を開いた。
花弁が風に乗って、また舞い降りていく。

アンタもしてみる?という視線を受けて、首を横に振る。

桜の花弁を握り締めていた彼の右手を、両手で包み込み、自分の方に引き寄せる。

「私の願いも、キミと一緒ですから」

その気持ちを伝えるように、彼の手へ唇を押し当てた。

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