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1-10

* 夢の内容をコネタにしてみました



入口の扉を恭しく押し開くボーイに、席まで案内してくれる給仕係。
頭上にはキラキラと煌めくシャンデリア。
日常とは、かけ離れた別世界に、自分がいる。

カツンと鳴る靴の音でさえ、今いる場所が普段と違うことを表しているようで、緩む頬を引き締める。
今の気持ちを傍にいる人物に伝えようとして、視線を向けた先の現実にガッカリした。

「はじめちゃん。涎。涎」
「へあっ。おっ、おぅ」

ゴシゴシと袖で口元を擦る幼馴染に、高揚していた気持ちが瞬く間に、日常へと戻ってきてしまう。
案内された席に大人しく座ったはじめちゃんへ、半分以上呆れの籠った口調で声をかける。

「すぐに料理が来るからね」

慰めの言葉を、周囲に聞こえないように小さく零した。


親が当てた懸賞品。
大人の気分を味わおうと、普段足を踏み入れない場所へと二人で来ている。
本当は、当てた両親が来れれば良かったのだが、都合がつかず、それとなく誘った幼馴染は、豪華ディナーの言葉に即座に飛びついてきた。

キョロキョロとしないよう、少しだけ窺うように周囲を見渡すと、その場の雰囲気に合わせて、それなりの恰好をしている人たちが目に入る。
うーん。この洋服、子供っぽかったかな。と買ったばかりの短めワンピースの裾を、手で引っ張って足元を隠す。
普段より、少し高めの靴は大人っぽい雰囲気にしたつもりだったが、周囲の人たちの服装を見ていると、自分が着てきた服が幼く見える。

自分の服装ばかりを気にしていたら、目の前に色鮮やかな前菜がやってきた。
赤と緑のコントラスが鮮やかで目に美しく映る。
色味を楽しんでいると、対極線上にいるはじめちゃんが、大口でペロリと全てを食べきっていた。

早すぎる。
もう少し、味わって食べればいいのに。

憤慨した気持ちで、目尻を釣り上げると、こちらを見てニヤリとした笑顔を見せられる。

「美雪、ソレ」
「あげません」

かけられた言葉を最後まで言わせず、自分用に出された皿を空にすべく、手元と口を素早く動かした。



チッ。
うっとりした表情で皿に乗っている料理を見ているから、雰囲気だけで腹がいっぱいなのかと思いきや、速攻で却下された。
いいんだ。まだまだ、サラダとスープがあるからな。
早くメインデッシュを食べたいが、我慢我慢。

ズズッと液体を喉に流し込むように、口付ければ、目の前の幼馴染が嫌そうに片眉を跳ね上げた。
その眉が、急に下がる。
おや、何か美雪が機嫌が良くなることがあっただろうかと心の中で首を傾げていると、

「そんなふうに音を立てたりしないでください。ここでは立派なマナー違反にあたります」

頭上から、響くこの声の主に心当たりがあった。

「イヤミな口調が聞こえるんだが、美雪、俺の背後にヤツがいるのか」
「ううん、背後じゃなくて、すぐ横にいるじゃない。明智さん」

気のせいにしたかった声の主が、真横に立っていた。

「なんで、アンタがここに」
「食事をしにきたんです」
「分かってるって。そうじゃなく」

どうして、美雪と二人でいるところに、現れるんだよ。
俺の動揺を余所に、美雪も驚いた表情で話し出した。

「まさか、明智さんも当選したんですか。この懸賞ディナー」

招待状にもなっている当選の文字付封筒を鞄から取り出して、美雪がヤツに聞いている。

「いえ、私の方は直接予約して来ています」
「そうですよね。いやだ。恥ずかしい」

顔を両手で押さえて、真っ赤な顔を俯けて恥じ入ってる。

それを横目で見ている俺としては、そんな表情をコイツに見せるなよと言ってやりたい。
恥らう美雪の表情や仕草が可愛くて堪らない俺としては、他の野郎に見せたくはないのだが、そんなことをコイツ相手に嫉妬しても仕方がないかと、食べ終えた空皿を目にヤツが傍を離れるのを待つ。

「一人で食事なんて寂しいよな、明智さん」

俺なんて、美雪と二人きりでディナーだぜ。
内心で勝った!と拳を上げている俺に、相手がサラリと言葉を口にする。

「もうじき、ツレが来ますので」

そう言い残し、ヤツが指定された席へと歩いていく。
それをぼんやりと見詰めて、ため息を一つ吐き出した。

ようやく、美雪の傍から離れたという安堵から吐き出されたものは、何故か、胸がつかえるような、深く湿った重い息だった。



その後、俺たちの席にメイン料理がやってきて、明智さんのことも頭から追いやって、無心で舌鼓を打つ。

ソースの付いた皿が空になり、一息を付くように視線をずらすと、先程まで話していた人物が目に飛び込んできた。

さっき言っていた待ち人が現れたらしい。
明智さんが席を立って、相手を迎え入れた。

その姿に周囲の目線が釘付けになる。
まず何より、彼女の髪色に視線が吸い寄せられる。
明智さんの髪色も他の人とは違い目を引くが、彼女の髪色はダントツにこの場では目立っていた。

「すごい、ブルーの髪色だよね。はじめちゃん」
「あぁ」

肩に着くかつかないくらいの長さの髪が、キレイに青く染められている。
耳の横へ流れるようにセットされている髪が、室内の灯りに照らされて、異彩を放っていた。

周囲の視線を物ともせず、彼女が椅子に座る。
その際、明智さんが彼女の横に並び立ったが、身長はほぼ互角だった。

「あの人、足細いよね」

美雪の方からは、彼女の足元が見える位置なのか、俺に囁くように告げてくるが、彼女の容姿ばかりに目が行ってしまい、身体つきまで頭がまわっていなかった。

二人が何やらメニューを見て、話しあっている。
俺たちのコース料理も、空いた皿を片付けながらドンドンと運び込まれ、締めのデザートまでやってきた。

視界に入るカップルは、メインデッシュを食べているようだ。
分厚そうな肉の塊が、彼女の口元へと消えていくのを眺めていると、急に、相手が席を立った。

やべっ、ずっと見ていたのがばれたのか。
こちらへとやってくるのかと、慌てて視線を外した俺の視界を一人の男が横切って行く。

あれ?
こっちへ来るんじゃないのか。

ほっと胸をなでおろし、彼女の方を見ると、皿には、まだ半分以上も肉が残っているのに、手を休めて、さきほど、明智さんが出て行った通路を見ている。
あぁ、心細いんだろうな。
普段は来ないこんな場所に一人きりにされたら、食欲も失せてしまうのだろう。
落ち着いた雰囲気で入店してきた当初とは違い、落ち着きなくキョロキョロと頭を動かしている彼女。
明智さんが、すぐに席に戻って来なければ、居ず仰せないから、トイレにでも行って時間を潰そうか。
でも、席に戻ってきたときに、自分がいないのは失礼にあたるかも。でも、このまま一人でいるのは気づまりだ。

彼女の心が手に取るように解る。
彼女と同等の立場になれば、自分もそう感じるから。

その後、すぐに明智さんが席に戻ってきた。
仕事の電話が来たんだろうと推測して、皿に解けたデザートを掬い、喉へと掻き込む。

美味しいはずのデザートは、自分の気持ちと一緒で不可解な味がした。


ディナー全てを食べ終えて、美雪がトイレへと席を立つ。
ロビーで美雪を待つことにした俺は、自分の席を立ち、ついでとばかりに、顔なじみに声をかけた。

「じゃ、帰るよ。明智さん。またな」

なるべく、彼女の方は見ないように告げる。
遠目にはジロジロと見ていたが、間近で見たら、きっと変な言葉が口から零れ出そうだと感じていた。

なるべく、さりげなく見えるように手を上げて、挨拶を済ます。
美雪と待ち合わせている、ロビーへと足を向けると、明智さんに声をかけられた。

「何?」

というか、彼女、席で待ってるじゃん。
数分アンタが席を外しただけで、不安がっているのだから、早く席に戻ってやれよ。という気持ちと、呼び止められた嬉しさが胸中綯交ぜになっている。

「キミにお願いがあります」

オネガイとは、いったいなんだ?
紡がれる言葉に胸が一気に高鳴った。

「このオークションサイトは知っていますか」

スマホの画面に、見知ったサイトが目に入る。

「あぁ、俺も会員だから知ってるよ」
「よかった。今日、11時に終了する品物を私の代わりに購入して欲しいのです」

何ソレ?
アンタの代わりって……。

彼女を送っていくから自分で競り落とせないのか。
はたまた、仕事になったからなのか。

オネガイって、そんなことか。
胸の高鳴りは下降したか、彼女の傍から離れて、俺に明智さんがお願いしてくるのは、気分がよかった。

「いいぜ。幾らで競り落とすんだ。あと、いったい何を落としたいんだよ」

この人が、こんなに必死になって落札したいものってなんだろう。

「古布です。この黄色が手に入れたい品物です」

小さい画面に、山吹色の布が映っている。
コレを手に入れたいワケね。

「分かった。後は、幾らまで金額出せるのか。メールで指示してくれよ。
美雪が待っているから。もう、いくぜ」

美雪が、痺れをきらしてこちらへやってきそうだと思ったのもそうだが、席で待つ彼女の存在が心に重く圧し掛かる。

「では、あとで」
「あぁ」

互いに背を向けて、それぞれの目的地へと足を向けた。


という夢を見ました。
ここまで物語形式ではありませんでしたが、概ねこんな感じ。

・明智さんの相手の髪色がブルー
・明智さんと一緒にいた彼女の気持ちが、はじめちゃんには手に取るように解る
・明智さんが彼女を放って、はじめちゃんにオークション代理入札を頼む

起きた後、いったいどんな意味のある夢だったんだろうと頭を捻ったものの、私の見た夢自体に意味なんてあるんだろうかと思いつつ、思わずコネタにしてました。






* 彼の人の



少しだけ右肩上がりな、細い線が続く。
か弱さを感じさせないのは、筆跡が強いからだろう。
縦長の流麗に書かれた文字を俺は知っている。

あの時に、交換した用紙をまだ持っているからだ。

「オッサン、これ明智さんの字だろう」

A4用紙の片隅に書かれている文字を見て、思わず呟いた。

「あぁ、警視に回覧を頼まれてなぁ。俺は、これでヨシ」

ポンとハンコを押して、隣の席に置く。

「メール連絡しないのか」

用紙に目をやったまま、オッサンに尋ねた。

「課内だけなら、こうして回した方が早いからな。メールだと読んでないヤツもいるし」

ポリポリと頭をかく仕草から、それが当人であると予想がついた。

「文明の利器は使おうぜ」

ポンポンと肩を叩いて、利用を促す。
だが、声高な反論が返ってきた。

「あんな小さい文字が読めるか」
「それなら、画像を大きくして読めばいいじゃん」
「そんなことしたら、読むのが面倒臭いだろう」

どうあっても、使うつもりはないようだ。
まぁ、確かに、こうして一枚の用紙に大きく記載してあれば、オッサンも見やすいだろう。

明智さんも面倒見がいいことで。

「そろそろ、行くか、金田一」
「おぅ、飯。飯」

空腹の胃に美味しい料理を思い浮かべて、顔がニヤける。
最後にもう一度だけ、あの人の文字を目で追った。

アンタは、もうあの紙を捨ててしまっただろうけれど、俺は、まだ持っているんだぜ。
トクンと鳴る心臓の音を意識しながら、財布をポケットの上から撫ぜる。

「金田一、置いてくぞ」
「待てよ。オッサン」

閉まる扉。
その戸をつかもうと、慌てて身を乗り出した。




◆   ◇   ◆




彼は、知らない。
私が、あの用紙を持っていることを。

「それでは、お互い同時に見せ合いましょう」
「カンニングすんなよ!」
「では・・・、いっせ~の」
「「せ!」」

折りたたまれた、用紙を開く。
彼の眉毛のように太く濃い文字。
自信の表れを示す大きさで用紙に書かれた容疑者の特徴と理由。

私の方が提出するのは早く感じたが、彼は、自分の方が早いと言い出して、喧嘩になった。

そのあと、起こったことは予想もつかないもので、周囲の戸惑いと悲嘆に安心させるように頷くことしかできなかった。
限られた時間内に自分ができるこをすべきだと、興奮と緊張で竦みそうになる手足を叱咤させて、操縦席へと向かう。

背広を脱ぎ、袖を捲り上げているとカサリと用紙が転がり落ちてきた。
あのとき、交換した彼の文字が目に入る。

それを見遣って、不敵に微笑む。

「こんなところで、死ねませんよ」

用紙を拾い上げ、心臓に近いポケットへ捻じ込んだ。

「さて、貴方が教えてくれた成果がここで発揮できるように見守ってくださいね」

グンと重くなったハンドルを握りしめて、計器を一つ一つ操作していった。





◆    ◇    ◆





見慣れた課内の扉を開けようと、腕を伸ばす。
それとほぼ同時に、彼が飛び込んできた。

「うわっ」

身体に力を込めて、抱き止める。
衝撃から、お互い言葉を無くしていると、横から部下の声がした。

「金田一、オマエ何してるんだ」

のんびりとした口調なのが、腹立たしい。
まだ、体制の整わない彼を助け起こしながら、部下に向き直る。

「剣持さん。メールは見ていただけましたか」
「いや、警視、自分は用紙の方で読ませていただきました」

ワタワタと慌てた様子で報告する様を見て、少し溜飲を下げる。

「明智さん、ありがと」

彼が、こちらを見ていた。

「さぁ、行くぞ。金田一」

部下が、促すように彼の肩を叩く。

「あぁ、じゃあな。明智さん」

スルリと横から抜け出ていく姿を捕らえそうになって、自分の両腕をつかむことで押し留める。

今は、まだ。
もう少し。

警察手帳が入っている胸ポケットに手をあてて、溜めていた息を吐き出した。





* 暗



「ほら、力を抜いて、金田一くん」

出来るか。そんなこと。

「しかし、いつまでたっても慣れませんね」

当たり前だ、俺に、そんなぶっといもの突っ込んどいてナニ言ってやがる。

「ほら、また力が入ってますよ」

ギチギチと音を立てている器官に、入り込もうとする異物。
進入を拒もうとする力と、それを果たそうとする力が、ぶつかりあう。

しかし、もう先端は入っているわけで、あとは、進入を続ける物体を呑みこむしかなく……。

「うあッ」

ズルッと音がしそうな勢いで、熱い塊が奥まで到達する。

こうなると、本能のまま動くのみだ。

「そうそう。キミは本当に飲み込みが早い」

嬉しそうに告げる相手の声音を無視して、ガクガクと震える顎を噛み締める。

毎回、毎回、同じような台詞。
こちらの身体が当惑するのも無理はない。
俺たちは、本当に肌を合わせる機会が少ないのだから。
毎日のように抱き合えば、俺も少しはこの行為に慣れるのだろうか。

いや、それは無理か。

この行為自体に意味はナイのだから。

「何を考えているんです」
「な に も」

考えることを放棄する。
脳内が靄かかったようになり、何も思い浮かばなくなる。

この一瞬。
これを得るために、受け入れた行為だとしたら。

またもや、思考している。
身体は絶えず快楽に喘いでいるというのに、脳内の片隅では、冷めた理性が結論を導き出そうとしていた。


何も考えないということは、何かを生み出さないということ。
生み出さないということは、考えなくてもいいということ。


浮かんでは消える論理に、亀裂が入る。

痛みにも似た快楽が背筋を這い登って、頂点に達する。

「キミは何も考えなくていいんてす」

自愛にも似た何かを込めて、男が囁く。

それに頷き返そうとして、見詰めた視線が重い瞼に隠された。

 
 
 
  
* 賭け



「なんですか、この点数は」

明智さんが、俺のテスト用紙を見て絶句している。
その横で、覗き込んでいた高遠がフムフムと頷く。

「獄門塾のときよりマシですよ」
「なんですって!あのときは事件解決が優先で、太陽荘の金田一くんたちまで手が回りませんでしたが、これ以下だというんですか」
「もちろん、コレ以下です」

得意気にそんなことを明智さんにバラすなよ。阿呆高遠。

「どうしますか、警視。金田一くんのことですから、私を捕まえるために、受験勉強に身が入らないと言い出すかもしれませんよ」

それは、まぁ、言い訳として考えていなかったと言えば嘘になるだろう。

「でしたら、簡単です。金田一くんが大学に合格するまで、私がみっちりと扱いてあげましょう」

不敵な笑みで、テスト用紙と俺を交互に睨みつけるのは止めてくれ。

「それでしたら、私も手伝いますよ」

意外なことを言われて、明智さんも俺も目が点になっている。

「なんで、高遠が!?」

俺が、疑問を口にすると、

「私のせいで、受験に失敗したと言われたら、親御さんの心象が悪くなるじゃないですか」

いや、待て。
何故、俺の親が関係してくるんだ。

「貴方の協力する姿勢は分かりました。
なら、賭けをしませんか」

明智さん、何を言い出すんだアンタまで。

「どのような賭けですか」

高遠が、ノル気で質問している。

「私が理数系を教えますので、貴方は国文系をお願いします。
どちらが金田一くんのテスト点数を大幅にUPすることができるか、総合点数で争うのはいかがですか」

「面白い、受けて立ちましょう」

フフフフフ。

互いに、唇の隙間から息を吐き出すような笑い声を上げて、微笑みあっている。

目が、まったく笑っていない二人に挟まれて、俺の人生はここで終わった気がした。

 
 
 
  
* バレンタイン



毎年憂鬱な行事だったのだが、

「どうも、ありがとう」

ニコリと笑って女性職員から、チョコレートを受け取る。

さて、このくらいあれば、彼は喜んでくれるだろうか。

「うわっ、スゲー。これ、食べていいの?」

紙袋に溢れるほどのチョコチョコチョコの山。
高級そうなラッピングに、胸が高鳴る。

「私だけでは、全部食べられないので、よかったら消費してくれると助かるのですが」

恐縮そうに言われて、ケッ、イヤミかよ。と思ったけれど、この数を見ると謙遜抜きで、食べられそうもないのは分かる。

ビリビリと包装紙を破き、目当てのものを口にする。
こんな立派な箱に入っているのに、チョコの数は4つしかない。
一つ一つは、それほど大きくないが、何故こんなに数が少ないのか疑問に思っていたけれど。

「美味い。コレ本当に美味いよ、明智さん」

柔らかい口どけに、舌に残る甘味。
今まで堪能したことのない、味わいにクゥ~と身体が身震いする。

「そんなに、美味しいですか」
「うん」

この美味しさを表現したくて、ブンブンと首を縦に頷いた。
頭を動かしすぎて、クラクラとしているところに、口付けをされる。

舌が絡まり、最奥を目指そうと熱い塊が更に進入してくる。
それを阻止するため、攻防を繰り返していると、熱い吐息が鼻から抜けた。

「美味しいチョコを味わったキミを食べてもいいですか」

いちいち伺いを立てる男を、少しだけ睨み付けながらも、コクリと頷き膝から力が抜ける感覚に身を任せた。

 

◆   ◆   ◆

 

女性職員からチョコを手渡される。
去年は、恒例行事として受け取っていたけれど。

「ありがとうございます」

今年は、満面の笑みで受け取る。
その理由は、

「これ、美味いよ」

彼のため。

「それは、よかったです」

来年からは、私の恋人のことも周囲に伝わり、今年ほど数はもらえなくなるだろう。
それを密かに安堵しているとは知らず、恋人は来年ももらえると良いななどと言っている。

その姿に、衝動を感じて本能の赴くままに口付けた。

 

「今年、警視すごく嬉しそうに受け取ってくれたよね」
「来年は、手作りにチャレンジしてみようか」

警視の思惑を外し、来年に向けて気合を入れる女性職員たちなのでした。
 




* とある日常6

 

高まりを現す白濁とした体液を、相手が俺の腹から拭き取っているが、まるで、薄く延ばして皮膚に擦り付けているようにも見える。

 

「はい、キミも」

薄紙を手渡され、その柔らかさに驚いた。
我が家で使用しているのとは、格段と違う気持ちよさだ。

これなら、風邪で鼻水が止まらない父ちゃんも、鼻の頭を真っ赤にしなくてもいいだろうに。

ベッドサイドに置かれているティッシュ箱を見る。
なになに、ピンクローションだと。
ずいぶんエロそうなものが入っているんだな。
とぼんやり眺めていたら、自身の処理を終えた男が、こちらを見て笑っていた。

メガネのない顔で、髪はボサボサ。
1ラウンド終えて、スッキリした笑みではない表情に、機敏に動けない身体が及び腰になる。


「もう一回いけそうですね」

俺に覆いかぶさってきながら、耳朶を食む。

その刺激にピクンと重い腰が揺れた。


※明金部屋 とある日常6に続きます



 
* 罹患



北風吹くビル街の脇道を、明智さんと並んで歩いていると、急にムセた。

「げほっ、げっ、ゲホッ」

唾が上手く飲み込めず、喉に絡まる。

「大丈夫ですか」

優しく気遣う言葉や、背中を摩ってくれる手の感触。
呼吸困難に陥っている、今の俺には、それを感謝する余裕がない。

目元の涙が零れ落ちる前に、ようやく楽に呼吸が出来るようになった。

「はぁ~、助かった」

濡れた瞳に映る、心配そうな顔。
驚かせて悪かったと、相手の肩を軽く叩く。

「もう、平気だから」

咳き込みすぎて、掠れた声しか出なかったけれど、安心させるように笑いかける。

「リカンかと思いました」

聞きなれない単語が耳に届いた。

はぁ!?
リカンって何だ?

俺がムセたのは、上手く唾が飲み込めなかった、だけなんだけれど……。

「リカンって……、」

呆然とした体で質問した俺の目の前で、明智さんが背広の内ポケットから警察手帳とペンを取り出す。
そして、なにやら書き込んだ。

「これが、リカンです」

差し出された手帳を覗き込む。

『罹患』

これが、リカン!
漢字で表されても、意味が全くわかんねぇ。

「で、どういう意味だよ、それ」

未だに訳が分からない言葉に、軽く苛立って問い詰める。

「病気になるという意味です」

問われた相手は、悠々と答を口にした。

それに対しての俺の気持ちは、ただ、呆れたの一言に尽きる。

突然、俺がムセたから、病気だと思ったわけね。
だったら、簡単にそう言ってくれ。

咳き込んだ以上にグッタリとした俺の脳に、とある事件が甦ってきた。

バルト城での、リチャードとの遣り取りだ。
あの時は、日本語を理解しているかということで、難しい言葉を使ってたよな。
俺も、もしかして試されているのだろうか。

手帳を仕舞って、ニッコリと笑った男の顔に、いまひとつ、釈然としない思いを抱え込む俺だった。



 
* リロード33のオマケ



カタンと音を立てて、ハブラシを仕舞う。
洗面所に並ぶ、色違いの二本。
同居人と俺のモノ。

ブラシが互いを引き寄せるように、対峙している様を見て、まるで自分たちが顔を寄せあって、キスしているような錯覚に陥る。

こりゃあ、マジで重症だ。

事件勃発により、長期自宅に帰ってこない恋人。
それに対して欲求不満の俺。

ハブラシ見て、こんな妄想をするなんて、よっぽど溜まっているのだろうか。

そんな考えを振り払うように、相手のハブラシをピンと指で押しやった。


□   □   □ 


朝起きて、眠気覚ましに洗面所へとやってきた。
今日は、何コマ目からだっただろうか。
大欠伸をしながら蛇口を捻り、そのまま顔を洗う。
冷たい水によって、ぼんやりとした意識が浮上する。
タオルをあてて水滴を拭い去っていると、とあるモノが視界に入った。

昨日の夜、指で弾いたハブラシが、再び対峙するように並んでいる。


故意か偶然か。
真意を図るめに、恋人の部屋のドアをソッと押し開けた。 

 


* リロード32のオマケ



飲み屋であれから数分後…。

「どうなんだよ、金田一の様子は」

琥珀色の液体を嚥下した相手に聞いてみる。

「はじめですか。堪りませんよ。触れれば私の動きに反応する身体なのに、心は15歳の初心なままなんですから。そのギャップに、もうクラクラです」
「そっ、そうか」

真剣に、いい店探して連れてかないと、金田一が危ない!
心の中で店選びを始める俺だった。
 



 * 態度



「やった!オッサン好きだぜ」

彼が大声で叫び、部下に抱きついている。
その姿に、向かっ腹を立てながらも、職場ではポーカーフェイスを貫いた。 「だから、何なんだよ、もう」

 

彼が私を見て、怒っている。
だが、こちらも怒りを静めるわけにはいかなかった。

「私以外に、大きな声で『好き』などと、軽々しく言わないで下さい」

怒りの根源を、彼にぶちまける。
言われた相手は、キョトンとした目で、こちらを見詰めて言い返してきた。

「何、言ってるのさ。あの時は、オッサンが寿司を奢ってくれるっていうから、言っただけじゃん。それに、アンタに対して言うのとは、違うだろう。意味合いが」

口を尖らすように突き出し、胸元辺りで、対象となる左右の人差し指と親指を押し付けている。

「それは、分かっていますが、キミ、あまり言わないじゃないですか。その手の言葉は」

私がそう詰め寄ると、彼が、押し黙る。
ここが日本で、未成年ということも考慮してみる。
だが、彼が私に告げた言葉は、絶対に部下より少ないはずだ。

それだけは、はっきりと言える。

だからこそ、気軽に『好き』と言ってもらえる年上の部下に対して腹も立つわけだ。

そんなことを、目の前にいる少年の顔を見ながら考えていると、当人が口を開いた。

「だから、オッサンとアンタは違うんだって。
好きと気軽に言える関係じゃないだろう俺たち。
それに、そんな台詞じゃ言い表せないというか、なんていうか、気持ちを上手く言葉に出来ないというか、……」

最後のほうは、彼が思考の淵に降りてしまい、ゴニョゴニョと小声で呟いている。

まるで推理するかのようなポーズで真剣に悩む少年。

言葉では言い表せないくらい、私を想ってくれているという姿勢に、心が震えるほどの歓喜に包まれる。
それと共に、言い表せないのなら、どうしたらいいのかを、彼へ提示したい気持ちに駆られた。

未だ、思考している恋人を手元に引き寄せ、解答を口にする。

「そんなときは、態度で表せばいいんですよ。ほら、こうやって」

下から見上げる瞳に吸い込まれるように、顔を近づけた。

「そんなこと出来るか!」

真っ赤になりながらも、私の元から逃げない彼に、先ほどの不満は跡形もなく解消していった。

 

 


「だから、オッサンって好き。でさぁ」

今日も職場で、彼が、あの言葉を口にする。

今度は、どんな態度で私への好意を示してもらおうかと、従順な身体を思い浮かべて、アレコレと脳内で熱く想いを滾らせていた。

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